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チューリップ畑のタワシ

リーガルドラマとエレインの痛み

アメリカ大統領選から数日間は他国のこととはいえちょっと異様な気分に陥ってしまい、メディアやSNSを避けてドラマ『グッド・ファイト』(2017-2022)ばかり観ていた。2016年の大統領選で人生が大きく狂ってしまった女性法律家、ダイアン・ロックハートの物語。アメリカ国民がヒラリーではなくトランプを選んだことにショックを受けて引退することにした彼女は、しかし投資詐欺に引っかかって全財産を失っていた。もう若くはないリベラルの女王は生活のために法廷に戻らざるを得なくなる。シーズン3くらいまで地上波で観ていたけれどうろ覚え。シリーズは現実を反映させながらシーズン6まで続いていたらしい。久しぶりなので最初から見始めたら、以前は見えていなかったことについて書いてみたくなった。

 

弁護士稼業を続けなければならなくなったダイアンは、自分を騙した親友夫妻の娘で新米弁護士のマイアと共に唯一声が掛かった黒人中心の事務所に移籍する。両親が金融詐欺を働いていたことはマイアにとっても青天の霹靂。濡れ衣を着せられたのだと主張するパパと自分は何も知らなかったというママ。しかしママはパパの弟と浮気しているようでもありマイアはもう自分の家族が信じられない。

 

裕福なリベラル家庭ですくすくと育ったマイアを疑心暗鬼に突き落とす怪しげな母レノアには誰かモデルがいそうだったが、それが誰なのか最初に観た時にはよく分からなかった。今回それが90年代のリーガルドラマ『アリー・マイ・ラブ』に出てくるお色気秘書エレインじゃないかと急に気がついた。そう思って見るとルーズなオフショルと今風でないウェーブヘアがなんともエレインぽい。ダイアン・ロックハートというヒロインの強面な役名も、アリーを演じてブレイクしたキャリスタ・フロックハートの明らかなもじりだ。イメージが違い過ぎて気が付かなかったけど、ダイアンってアリーの中の人(?)だったんだ。

 

『アリー・マイ・ラブ』の主人公アリー・マクビールは、運命の相手だと思っていた彼氏よりロースクールの成績が良かったせいで破局してしまい、人生を迷走中の法律家。とある回で秘書のエレインとの距離が近づいたアリーは、行き当たりばったりに見える彼女の人生のキャリアアップを提案する。でもエレインは「自分は男に騙される知的ではない女だけど、この人生を楽しんでいるんだから放っておいて」みたいなことを言ってピシャリとアリーを締め出してしまう。それ以上アリーがエレインに関わることは出来ず、二人はそれぞれ孤独な夜を迎えるという苦いエピソードが確かあった。エレイン役ジェーン・クラコウスキの演技が良くて「自分を変えようとするアリーと一緒にいると苦しい」という痛みがリアルに伝わる印象的な回だった。基本アリーの側のキラキラしたドラマだったけれど、アリーの世界ではエレインが痛みを感じてしまうというのは重要な部分だったのだと思う。オフィスでの過剰に性的な振る舞いはエレインがアリーたちの世界で生きるために必要な鎧で、彼女がアリーの側で感じる痛みから逃げ出してしまうのは理屈ではないのだ。前々回も今回も、騙されていると分かっていながら彼女はトランプの方を支持したのではないかと思った。

 

ダイアン・ロックハートは『グッド・ファイト』の前身『グッド・ワイフ』(2009-2016)の中でヒロイン、アリシア・フロリックのメンター的存在として初めて登場する。アリシアは良きリーダーだと信じて支えてきた政治家の夫に疑惑を抱き、主婦から弁護士に復帰した女性。当時は何も考えないで観ていたけど、アリーもアリシアもダイアンも、夫より優秀だと言われていたヒラリー・クリントンの分身として生まれたキャラクターだった。

 

彼女たちは本当は男性より優れている法律家という設定だが、アリーは伴侶を見失い、アリシアは夫に尽くすも裏切られる。そして最もパワフルに生き抜いてきた女王ダイアンは周囲の支持を得られなかった。彼女たちがガラスの天井を破るには武装を解いたエレインと連帯することが必要なのだろうけど、それにはまだ何かが足りなかったらしい。今回の選挙ではヒラリーに続いてカマラ・ハリスも敗北してしまった。リベラル対保守という見せ掛けの対立軸は取り払われて、トランプ的なものと和合出来る者とできない者みたいな世界がいよいよ臆面もなく姿を現した感がある。エレイン(的なママ)から詐欺師との間に儲けた娘を託されてしまったダイアンがどう戦うのか、せっかくなので『グッド・ファイト』はぼちぼち観続けようかと思う。それまでに世界が終わらなければ。

 

「私たちは疲れてしまったんです」と語るショーランナー↓

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みんな大好きエルズベス・タシオニを主役にしたドラマが始まっていた↓

s.cinemacafe.net

2022年に続編のニュースがあったものの2024年現在の進捗は不明↓

www.crank-in.net

そうはいってもトランプの中の人、ファーストレディの中の人はリベラルなんじゃないかという当時囁かれていた希望的観測に向けられた背中↓

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