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鏡の国のワタシ

『秋刀魚の味』

秋刀魚の味』(1962)松竹

脚本 野田高梧 小津安二郎

監督 小津安二郎

音楽 斎藤高順

 

2025年になって小津安二郎デビューをした。『スロウトレイン』がどうのこうのと書きながら『秋刀魚の味』を観ていないのもどうかと思い・・・序盤のセクハラ臭の酷さに「思ってたのと違う、これは最後まで見られないのでは」と思ったけれど、ひょうたん親子の登場あたりから引き込まれて見ることが出来た。恐らく序盤のいたたまれなさにはわざとな部分もあるのだろう。澄んだ目をした笠智衆が邪気の無い表情で性的な発言を繰り出すのはとても怖かったけど。

 

元帝国海軍で艦長をしていた平山は、戦後は会社勤めをしながら長女の路子と次男の和夫と三人で暮らしている。共働きの長男夫妻は子どもを持たずに集合住宅で近代的な生活をしている。学生時代の恩師「ひょうたん」を交えての同窓会を企画した平山は、厳しい漢文教師だった「ひょうたん」が戦後町中華の主人に転身して苦労していることを知る。

 

「ひょうたん」は身の回りの世話をしてくれる娘を手放さずにいるうちに行き遅れさせてしまったと後悔している。ひょうたんと老いた娘はまるでくたびれた中年夫婦のようにも見える。彼との再会によって平山は路子の縁談を真剣に考え始めるが、路子の意中の人物は既に別の相手と交際を始めてしまっていた。路子は黙って平山の友人が持ってきた縁談の相手の元へと嫁いで行く。平山は娘の去った家にまだ学生の次男と二人取り残される。

 

ひょうたん役の東野英治郎は自分にとっては何と言っても水戸黄門である。特に正面からのショットは久しぶりに見る水戸光圀公であらせられた。でも今作では時代の変化について行けずに元教え子たちにぺこぺこする町中華の店主役。娘を結婚させずに手遅れになったと嘆く彼だが、娘を嫁に出していたら彼の人生は救われていたのだろうか。平山も慌てて路子を結婚させようとするが、路子が好意をよせていたらしい相手には「もっと早く言ってくれれば」と言われてしまう。恐らくどのみち彼らはいつでもタイミングを逸しているのだ。

 

平山の友人の一人は娘ほどの若さの妻と再婚していて、そのことで性的なプレッシャーを周囲に発散している。序盤は屈託なく猥談に加わっていた平山だが、路子が嫁いだ後、「若い女と再婚すればいい」と言われて「君は最近不潔に思える」と返す。若い頃の妻に似たバーの店主に「葬式ですか」と聞かれて「そのようなものだ」と答え、ニコニコと軍艦マーチに耳を傾ける。全体に朗らかなトーンの映画ではあるけれど、この人は戦争で死にたかったんだろうなと思わされる。若返りの薬を飲んで、若い女を娶り続けて平和な時代を生きたくはないのだ。共に残された全然可愛くない次男に「まだ死んでもらっては困る」と言われて台所で一人うなだれる平山。家事の分担くらいなんだ。今は便利な家電もあるってみくりさんが言ってたぞ、平山。アルコールを抜いて寝て起きて生きろ。秋刀魚が出てくる話だと信じていたので、出てこなかったのは意外だった。

 

なるほどサンマーメン説↓

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