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チューリップ畑のタワシ

父の"あがり"の完遂/『すべてうまくいきますように』(2021)

François Ozon, Tout s'est bien passé,2021,U-NEXT

 

 作家のエマニュエルは父のアンドレ脳卒中で倒れたという連絡を受けて病院へ駆けつける。麻痺が残る体となった84歳の父は安楽死を希望する。同性愛者である父と母との関係は険悪で、長女のエマニュエルが妹のパスカルと共に父の最後の希望を叶える為に奔走することになる。

 

 彫刻家の母クロード役は監督のミューズの一人でもあるシャーロット・ランプリング。彼女も既に心身の自由が利かず、至れり尽くせりな付き添い看護師を連れている。なかなか裕福な一家なのだ。倒れた夫の様子を見に来て言葉も交わさずにジロリと一瞥する目が怖い。病院の外ではアンドレと腐れ縁の男であるらしいジェラールが家族から締め出されてウロウロしている。

 

 日を追うごとにアンドレは回復のきざしを見せる。安楽死の希望を撤回してくれるのではないかと姉妹は願うのだが、それでも彼の意志は堅い。フランスでは違法なので処置はスイスの病院で行わなければならず、法に問われかねないので家族が付き添うことも出来ない。全ては弁護士とも相談しながら秘密裡に進める。やはり相当裕福でなければ端から難しいし、手助けをする家族にもかなりな精神力と判断力が必要とされる。

 

 観ながら自分がエマニュエルの立場だったらと何度も自問する。人生の全てを味わって、自分の意志で旅立ちたいと決意した男の最期にどう寄り添えばいいのか。自分にはとてもやり遂げられないと思う反面、どんなにろくでもない親でも出来るだけのことはするかも知れないとも思う。いよいよスイスへ送り出す直前になって姉妹は警察から呼び出しを受ける。慌ただしく段取りをつけて民間の救急車に父を託す最後の別れの場面は胸に迫る。救急士達が可愛いくてお気に入りだとアンドレは終始ご機嫌なのだが。(実際可愛く陽気な二人組で、そこには観ている方も少し救われる。道中でアンドレの目的を知ってしまったらしいのはお気の毒だ)。

 

 映画の最後は本当に突然プツリと終わる。肉親の葬儀を経験したことのある者にはなんとなく分かる感覚かも知れない。諸々の手配をしている間はせわしなく気が張っていて悲しむ暇はない。彼女たちの喪はこれからなのだ。

 

 

 

オゾンは『スイミング・プール』や『ふたりの5つの分かれ路』でコラボしたエマニュエル・ベルンエイムから映画化を託されたのだそうだ↓

librairielefilm.com