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筋力弱くたどたどしく何もわかってない

フィギュアスケーターたち

 五輪のフィギュア競技を心待ちにしていた。なのに、まさかの目玉選手のドーピング疑惑に心乱される日々となってしまった。他人の努力から元気をもらおうだなんて甘いことを期待していた罰だろうか。結局、日々を照らす光というのは自分の中に見つけるしかないのだ。そんなことを最終日の羽生結弦のエキシを眺めながら考えた。以下は自分の気持ちを整理するためのノートだ。

 

2月4日 開会式に先駆けて、フィギュア団体戦が始まる。コンドラチュクの『オスマン帝国外伝』が振り切っていて好き。宇野昌磨がコーチ不在の中、完璧なオーボエ協奏曲。カナダチームからbeautiful!と声がかかってペコリ。ネイサン・チェンは演技以外決してN95マスク(多分)を外さず。相当な覚悟だと思う。

 

2月5日 開会式 音楽の扱いが変でつらい。

 

2月6日 樋口新葉のYour Song。表情の柔らかい美しさにこれは行けると思う。ワリエワは3Aを難なく成功。エテリが珍しくキスクラでパフォーマンスを頑張る。羽生結弦北京入り。

 

2月7日 団体戦が終了。ワリエワ、オリンピックで女子初の4回転成功。ROC金、アメリカ銀、日本銅。誰を出しても盤石なはずのROCが、ショートもフリーもメンバーを固定してきたのを少し不思議に思う。

 コーチがリンクサイドに立たないことに関して、「ルーティーンを尊重してもらっている」と羽生がコメント。

 

2月8日 男子個人戦が開幕。ヴィンセント・ジョウがコロナ陽性で欠場を発表。氷の穴にはまって羽生が4回転サルコウを落とす。ネイサン・チェンがとうとう世界最高得点を出す。個人的MVPはコロナのせいで前日に北京入りだったキーガン・メッシング。

 

2月9日 団体戦のメダルセレモニーが行われず、IOCが「法的な問題が生じている、これ以上は言えない」とコメント。羽生の前に滑ったモザレフに殺害予告があるというデマ。本当はROCのドーピング問題らしいと囁かれ始める。コンドラチュクが練習に出なかったのはおかしいと指摘されて、元々休養日だとコーチが一蹴。

 

2月10日 男子シングルフリー 朝練習時、羽生にミーシンがばつ印を作る(4Aは止めておけという意味だったらしい)。ネイサン金、鍵山銀、宇野銅。羽生4A認定。

 

2月11日 アンチドーピングの国際検査機関がワリエワの名前を発表する。ロシアの反ドーピング機関(RUSADA)が出場を許可した為、世界反ドーピング機関(WADA)とIOC側はスポーツ仲裁裁判所へ出場停止を求めて提訴。

 16歳未満は要保護対象者として原則名前は出さず、罰則も軽くなるという何かがあるらしく、ROCは彼女をなんとか個人戦にも出そうとした。ROC側の暴走と加熱する報道を食い止めるために、名前が公表された印象だ。確かにこの時点で彼女であることは隠せなくなっていたが、公的な機関が名前を出してしまったのはどうなのだろうとは今も思っている。

 

2月12日 アイスダンスの小松原組、フリーに進めず。個人戦SAYURIの披露はならなかった。男子シングル表彰式。

 

2月13日 チームジャパンのメダリスト会見で、宇野昌磨が「ネイサン・チェンのような存在になりたい」と語る。自分の方が歳上なのに、真っ直ぐそう言えるのが彼のすごいところだ。

 自由練習で宇野、鍵山とコンドラチュクが仲良く4回転を跳ぶ。ワリエワのオンライン公聴会

 

2月14日 スポーツ仲裁裁判所が「出場できないと取り返しのつかない損害の恐れ」としてワリエワの出場を認める。要保護の意味とは。それを受けてIOCとISUは出場を暫定的な扱いとすることを決める。泥沼の予感しかない。

 コンドラチュクが羽生とのツーショットをインスタに上げる。今回の件では危うく人身御供にされかけた気もするコンドラチュクだが、転じて一番オリンピックを満喫出来た強運の人なんじゃないだろうか。羽生結弦、単独記者会見。

 

2月15日 女子個人戦ショートプログラムが始まる。樋口新葉、3A成功。最終滑走の坂本花織が圧巻のグラディエーターで全てを浄化する。

 

2月16日 ブノワ・リショーがインスタで坂本に寄せたメッセージに泣く。彼女が今季取り組んだテーマは、結果として女子シングル唯一の希望みたいになってしまった。

 

2月17日 女子個人戦フリー ワリエワの順位が暫定なため、特例で1人多い25人が参加。異様な雰囲気に特に前半の選手たちは辛そうだった。マライア・ベルの演技あたりから、怒りをポジティブなエネルギーに変える選手が増えたように感じて少し救われる。

 最終グループにはエテリ組3人。樋口新葉はライオンキングで再び3A成功。あらゆる怒りを強さに昇華。トゥルソワは4回転5本に挑んでトップに躍り出る。坂本花織のNo More Fight Left In Me、ジャッジアピールで手を差し伸べる所にいつもゾクゾクさせられる。グリーンルームで少し戸惑った様子のトゥルソワを讃える暫定2位と3位の坂本と樋口。トゥルソワが逃げ切りそうだったけれど、こういう時のアンナ・シェルバコワは強い。総合でほんの少し上回り、ワリエワを残してトップに立った。正直、坂本のメダルは(後で貰えるとは思っていたけれど)オリンピック期間中には決まらないかと思った。しかしショートまではなんとか堪えていたワリエワの気持ちは完全に切れていて、エテリの最高傑作が崩壊していく様が世界に中継されてしまった。

 本当の地獄絵図はここからで、勝者が決まったグリーンルームに2位のトゥルソワの姿は何故かなく、マッカチンティッシュケースと席をシェアして縮こまるシェルバコワと、異常事態にもちゃんと彼女を讃える坂本だけが映される。トゥルソワが自分が金ではなかった事に泣き出してエテリの抱擁を拒否した事などが後から伝えられた。4位となったワリエワは、叱責に泣きながら「これで表彰式は行われる」と返したとか。

 風呂上がりの我が家の16歳が「全然知らない子が金メダル獲ってる!」と叫んでいたが、シェルバコワは最初からずっとそこにいた。結局はエテリへの依存が一番少なかった、とても賢い子が少女たちのデスゲームを制したのだ。一人ぼっちになってしまったけれど。

 

2月18日 エテリは選手に冷たく見えたとバッハが言い出す。羽生は中国のアイスダンスペアからパンダをもらい、頼まれてキーガン・メッシングのバックフリップを撮影してあげる。

 

2月19日 エキシ練習後、ボーヤンからプレゼントされたパンダ帽子を被って羽生が製氷作業を手伝う。りくりゅうペア、会心のフリー演技で入賞を果たす。

 

2月20日 エキシビション クビテラシビリのジーニー、ワリエワの役はトゥルソワになった。宇野昌磨はステファンの為にMJメドレーにしたと語る。羽生結弦は『春よ、来い』でプライドの3A。シェルバコワは一人羽ばたき続けて星座となり、ネイサンはショートの衣装着回しでキャラバンを滑った。・・・ブレない人たちの強さを再確認した祭りの終わりだった。

 

 オリンピックが終わった途端、プーチン政権は本格的にウクライナに手を出し始めた。1994年、ハーディングとケリガンのスキャンダルを尻目にリレハンメルで金を攫った16歳のオクサナ・バイウルは、連邦の崩壊を経験したウクライナの選手だった。エテリが生み出してきた15歳の身体能力に19歳の表現力を備えた最強少女戦士たちの雛形の1人は(エテリとほぼ同世代の)彼女だったのかなと思う。世界が求める勝利の女神の姿は、きっと今回のオリンピックでまた少し変わった。健闘した全ての選手たちのために、3月の世界選手権が無事に開催されることを祈る。

 

鏡の中の鏡

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